【時間栄養学】エビデンスを基に最適な食事のリズムを追究してみた

食事

 

皆さんは「時間栄養学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

時間栄養学は比較的新しい学問であり、現在最もホットな研究分野の1つと言えるでしょう。

 

そしてこの記事ではその時間栄養学をテーマに掲げ、様々なエビデンス(科学的根拠)を基に私たちにとって最適な食生活・食事のリズムを考えていこうと思います。

 

体内時計には種類がある

low angle photo of tower

時間栄養学という学問は人間がもつ体内時計と密接に関係しています。

そして、その体内時計にもいくつか種類があることをご存知でしょうか?

 

その体内時計の種類とは以下の3つです👇

 

  1. 中枢時計
  2. 脳時計
  3. 末梢時計

 

中枢時計とはその名の通り体内時計の中枢を指し、この体内時計の本体は脳の視床下部にある視交叉上核(Suprachiasmatic Nucleus:以下SCNにあります。

そして「大脳皮質」「海馬」「線条体」などには脳時計、さらには「肝臓」「膵臓」「脂肪」「骨格筋」などの臓器や細胞の1つ1つに末梢時計が備わっています。

 

 

この中枢時計と、脳時計および末梢時計の関係性は指揮者と奏者のようなものとイメージするのがわかりやすいです。

脳時計と末梢時計はそれそれ自らの時計を持っていますが、その裏では中枢時計による影響も大きく受けています。

 

中枢時計(SCN)と末梢時計の関係性

ここからはさらに中枢時計(SCN)末梢時計の関係性を詳しく見ていきましょう。

ここで1つマウスを使った実験を紹介します👇

 

夜行性であるマウスに活動期ではない時間帯(昼間)に餌を与え続けた場合、メラトニン(睡眠を司る)コルチゾール(ストレスに関連する)の分泌リズムは普段と変わらないことが分かりました。

そして今度は中枢時計(SCN)を破壊されたマウスを観察したとき、メラトニンやコルチゾールの分泌リズムが形成できなくなることが分かりました。

しかしながら、中枢時計(SCN)が破壊されたマウスでも餌を一定の間隔で与え続けた結果、肝臓や腎臓などの時計遺伝子の発現リズムは一定のリズムを形成できることが観察できました。

 

 

つまりこの実験からは主に以下の2点が導き出せます👇

 

  1. メラトニンやコルチゾールの分泌リズムはSCNに依存する(SCN依存性)
  2. 肝臓や腎臓などの末梢組織のリズムはSCNではなく食事性に依存する(SCN非依存性)

 

指揮者と奏者の例で例えると、

SCN(指揮者)がいなくなった場合、末梢組織(奏者)は楽譜上の本来の曲のペースとは異なるが、マイペースで曲を弾き続けることができる」ということですね。

 

また、ヒトにおいても中枢時計と末梢時計の関係性を垣間見える実験が行われています。

その実験の概要は以下のとおりです👇

 

  • 明期(明るい時間帯)を7時〜23時に固定する
  • 食事時間を「7時・12時・17時」に固定する
  • その後、「12時・17時・22時」と5時間遅らせる
  • それぞれの場合において中枢時計のリズムはメラトニンとコルチゾールの分泌リズム、末梢時計は皮下脂肪を4時間おきにサンプリングして観察する

 

その結果判明したのが、「食事の時間を5時間遅らせても中枢時計のリズムは変化しなかったが、末梢時計のリズムは1~1.5時間後退した」です。

先ほど紹介したマウスを使った実験結果を考慮すると、もしこの実験においてヒトのSCNを破壊していた場合、末梢時計のリズムはずらした食事の時間と同じ時間の5時間分ずれていたと考えられます。

 

ではなぜ1~1.5時間という中途半端な時間だったのかと言うと、

SCN(指揮者)は楽譜通りに曲のペースを保とうとするが、奏者は自分のペースで曲を弾きたい。その結果お互いの力が引き合ってしまい、綱引きをしているような状態になった」と考えられます。

この実験結果からも、やはり末梢時計は中枢時計の影響を少なからず受けていることが分かります。

 

そして後ほどまた説明しますが、この中枢時計と末梢時計にズレが生じてしまうと、様々な不調を抱えやすくなったり、本来の力を発揮しづらくなると考えられます。

 

せん
知ってた?髪の毛やヒゲなんかの細胞にも時計遺伝子は存在してるんだぜ。

 

三大栄養素と時間栄養学

assorted fruits on brown wooden bowls

体内時計の概要について見てきたところで、ここでは「糖質」「脂質」「タンパク質」の三大栄養素の消化吸収および代謝機能と食事のタイミングの関係性について見ていきましょう。

 

糖質

先ほども述べたとおり、末梢時計のリズムは中枢時計(SCN)よりも食事に大きく依存しています。

ここで1つ頭に浮かぶのが、「食事であればなんでもいいのか?」という疑問です。

 

研究によると、末梢時計のリズムを形成する中心的な作用因子の1つとして「インスリン」が挙げられます。

インスリンとは血糖値が上昇したとき(糖質を摂取したり、ストレスを抱えているとき)に分泌され、上がった血糖値を下げる働きがあります。

 

マウスを使った実験により、インスリンを投与した結果、肝臓の時計遺伝子リズムの発現量が増加していることが分かりました。

もちろんインスリン以外にも末梢時計のリズム形成に関わる因子が存在する可能性もありますが、この実験結果から「糖質を摂ることで末梢時計のリズム形成がしやすくなる」ということは間違いなさそうです。

 

また、興味深いことにインスリンは生物の活動期の前半(ネズミの場合は夜のはじめ、ヒトの場合は朝のはじめ)に分泌しやすいことが分かっています。

つまり、私たちにとって「夜よりも朝の方が耐糖能(血糖値を正常に保つ能力)が高い」のです。

そのため血糖値を気にするなら夜はなるべく血糖値が上がりにくい食べ物を食べ、血糖値が上がりやすい食べ物を食べるにしても朝に食べる、という方が賢明と言えるでしょう。

 

脂質

脂質の代謝に関しても、体内リズムによって違いが生じてきます。

例えば、脂質の主な構成成分である脂肪酸は朝に代謝され、夕方にかけて合成される傾向があることが分かっています。

 

また、面白いことに血中の中性脂肪は、血糖値が夜の方が下がりにくいのと同様に、朝に比べて夜の方が増えやすいことが分かっています。(先ほど紹介した体内リズムによる耐糖能の違いと同様の傾向)

つまり、「脂質は夜よりも朝に摂ったほうが血中の脂質量が改善する」のです。

 

さらに、魚油に含まれるEPADHAも朝食に食べた方が吸収量が高まることもわかっているので、朝食で栄養バランスの良い食事をしっかり摂ることがいかに大事かよく分かりますね。

 

タンパク質

「糖質」「脂質」と来たら残るは「タンパク質」です。

タンパク質に関しても「いつ食べるか」によってどのような違いが出るか、面白いデータを紹介します。

 

健康的な男性を対象にした研究で、「1日のタンパク質の摂取量は同じ」という条件下で、以下の2つのグループに分けました👇

 

  1. 3食均等にタンパク質を摂取するグループ
  2. 朝食に少なく夕食に多くタンパク質を摂取するグループ

 

この2つのグループにおいて筋肉の合成を観察して見たところ、「24時間の筋合成は夕食に偏って摂取したグループに比べて、3食均等に摂取したグループの方が高くなることがわかりました。

 

私たちはつい時間がないからと朝食を抜いたり、食べたとしても少量、逆に夜は朝に比べて沢山食べる、という生活を送ってしまいがちですが、筋力を維持するという面でも朝食はしっかり食べた方がいいと言えそうです。

 

せん
「いつ食べるか」によってこんなに変わるなんて、生物ってホント不思議だなぁ…。

 

最適な食事のタイミング

ここまでで「中枢時計と末梢時計の関係性」「朝食を摂らないと末梢時計のリズムが後退する」といったことを見てきました。

ただ、どうも「朝食さえしっかり食べればそれでいい」というわけではないようです。

 

というのも、末梢時計のリズムの決定には「最も長い絶食後の食事が関与している」からです。

どうゆうことか、説明していきます。

 

マウスを使ってヒトの食生活を模倣した以下のような実験が行われました👇

 

  1. マウスに対して1日3食の餌を与える(ヒトでいうところの7時・12時・19時の時間帯)
  2. 今度は朝食と昼食は同じ時間だが、夕食だけ遅めに設定(ヒトでいうところの7時・12時・23時の時間帯)

 

このとき、前者①の場合に比べて、後者②の「夕食だけ遅め」のケースを見たときに、「末梢時計のリズムが前進していた」ことが分かりました。

前者①の最も長い絶食時間は19時から翌日7時の12時間、後者②の最も長い絶食時間は12時から23時の11時間です。

この実験結果から、末梢時計のリズムは「最も長い絶食後の食事をベースに形成される」ということが考えられます

 

 

つまり、「しっかりと7時に朝食を食べたとしても、夕食の時間が遅かったら最も長い絶食時間が昼食と夕食の間の時間帯となってしまい、末梢時計のリズムが中枢時計のリズムと同調できない」ということです。

このことから、ただ朝食を摂るだけでなく、昼食や夕食の時間帯も考慮して、夕食から翌日の朝食にかけての時間帯を最も長い絶食時間となるように心がける必要があることが分かります。

夜遅くに食べるのは体に良くない」と良く聞きますが、その背景として体内時計が深く関わっていたんですね〜。

 

朝食は英語でBreakfast(「fast:断食」を「break:破る」)と言いますが、文字通り断食を破らなければ、それは朝食とは言えないのかもしれません( ̄▽ ̄)

 

中枢時計と末梢時計のリズムを同調させる、つまり生体リズムと食事のタイミングを合わせることによって、日常を快調に生きられるだけでなく、長期記憶力の改善やうつの予防にもつながることが分かっています。

そのため、シンプルな結論となってしまいますが、「朝起床して朝日を浴びて朝食をしっかり摂る」ことが中枢時計と末梢時計を効率的にリセット、かつ同調させる上で重要です。

 

最後に食事に関するドイツのことわざを紹介して、この記事の締めとします👇

 

Eat like an emperor in the morning, like a king for lunch, and like a beggar for dinner.

朝は皇帝のように、昼は王様のように、夜は貧者のように食べなさい。

 

gold and black uplight chandelier

 

この記事のまとめ

ちょっとこの記事は色々な情報がごちゃごちゃしちゃったので、以下に記事の要点をまとめておきます👇

 

  • 体重を短期間に劇的に減らしたい」「血糖値を短期間で劇的に改善させたい」といった健康に関する緊急の悩みがない限りは基本的に朝昼夕と3食しっかり食べた方がいい
  • ただ、朝昼夕に食事を摂るだけでなく、夕と翌日の朝にかけての絶食時間を1日のうちで最も長くさせる(中枢時計と末梢時計をリセットかつ同調させるために)
    つまり夜遅い時間に食事をするのはなるべく避ける
  • 夜は血糖値と血中中性脂肪が上がりやすいため、食べ物の質を考慮しながら大量に摂取しないよう心がける
  • 逆に朝食は栄養バランスの整った食事をがっつり食べれば、血糖値や血中中性脂肪の上昇を抑えながら、食べ物からの栄養の効果を最大化できる
  • 適切な筋肉量を維持するためには、夕に偏ってタンパク質を摂取するのではなく、可能な限り3食均等に摂取する

 

せん
現場からは以上だ!