21世紀もはやくも四半世紀経とうとしている中、「マインドフルネス」が急速に広がりを見せています。
日本でも少し前までは「なんか怪しい」「ホントに効果あるの?」みたいな風潮が強かった気もしますが、徐々に実践者も増えてきているように感じます。
事実、主に瞑想を通したマインドフルネスの実践によって、ストレスやうつ症状、不安などの改善、さらには心身の健康の増進に繋がることがエビデンスを基に明らかになっています。
そこでこの記事では、
- マインドフルネス瞑想の種類
- マインドフルネスを実践すると心にどんな変化が生じていくのか?
といったことについて解説していきたいと思います。
目次
マインドフルネス瞑想の種類
マインドフルネス瞑想には主に以下の2種類があります👇
- 集中瞑想
- 洞察瞑想
それぞれ見ていきましょう。
①集中瞑想
1つ目は「集中瞑想(FAM:Focus Attention Meditation)」です。
「サマタ瞑想」と呼ばれることもあります。
集中瞑想とは、その名の通り、「ある特定の対象に意図的に注意を向け続けることにより、集中力を育む」瞑想技法です。
注意を向ける対象は何でもよく、物理的なもの、抽象的なイメージ、複雑な思考など、ある特定の物事のみに注意を集中し続けます。
ただ、伝統的な仏教、そして現代で教えられている集中瞑想では、自分自身の「呼吸」を対象として用いられているケースが多いです。

この「特定の刺激に注意を向け続ける」という行為は思ったよりも難しく、頑張ってその対象に注意を向けていたかと思えば、気付いたら別の思考や考えに囚われていた、なんてことが度々起こります。
そしてこの「今この瞬間に特定の対象に対して注意を向ける、という課題を実施できていない状態」をマインドワンダリング(心がフラフラと彷徨っている状態)と言います。
自分も瞑想したての頃なんかは10分間の瞑想のうち、
- 注意を集中していたのは最初の10秒だけ
- 残りの時間は別のことに囚われている
- マインドワンダリング状態になっていたことに瞑想が終わって初めて気付く
といった感じで最初はなかなか苦戦しました(笑)
このように集中瞑想実践時のプロセスにおいて重要な段階として、まずは「特定の対象以外のものに注意が囚われている(マインドワンダリング状態に陥っている)ことに気付くこと」が大切です。
しかし、特に瞑想実践初期の頃はマインドワンダリング状態に気付いたとしても、再度特定の対象に注意を向け直すことを難しく感じ、そこに葛藤が生まれます。
この「この対象に注意を向け続けたい!でも他の対象(妨害刺激)にどうしても囚われちゃう!」という葛藤を繰り返すことで、葛藤していること自体に気付く「コンフリクトモニタリング機能」が育まれていきます。
また、集中瞑想の第一段階が「マインドワンダリングに気付くこと」であるならば、第二段階は「妨害刺激から注意を離し、特定の対象に注意を向け直す」ことです。
このように「特定の対象に注意を向ける」「妨害刺激に囚われる」「妨害刺激から注意を離す」「再度特定の対象に注意を向ける」を繰り返し続けることにより、「選択的注意機能」が育まれていきます。
②洞察瞑想
2つ目は「洞察瞑想(OMM:Open Monitoring Meditation)」です。
「ヴィパッサナー瞑想」と呼ばれることもあります。
洞察瞑想とは、「今この瞬間に生じている感覚・感情・思考といった経験をありのままに迎え入れ、それにより平静さを育む」瞑想技法です。
瞑想をしていると、必ずといっていいほど、
- 「あ、ここちょっと痒いな…」(感覚)
- 「ずっと座ってるの退屈だなー」(感情)
- 「今日はこの予定をこなそう」(思考)
といった感じで具体と抽象に関わらず様々な経験が生じていきます。
こういった経験を感じたら、それらを判断したり囚われたりすることなく、ありのままに観察します。
このように「ただただ観察する」という行為をし続けると、これらの経験はそこにずっとあるものではなく、「生成と消滅を繰り返しているだけ」ということに気付いていきます。
こうして「あらゆる経験に対する愚直な観察行為」を繰り返すことで、「どんな経験や対象も自分の思い通りにコントロールすることはできない」と体感的に理解し、この体感的理解が「いかなる経験に対しても穏やかで受容的な態度で接する」という心の平静さへと繋がっていきます。
自分の場合は瞑想実践初期の頃は集中瞑想の存在しか知らず、ずっと呼吸に注意を集中し続ける瞑想を実践していました。
ただ、あるとき「呼吸に注意を集中するのをやめて、自分の体感覚全てを観察したらどうなるんだろう?」と思って実践してみたところ、集中瞑想とは全く違う感覚になったんです。
この瞑想をしているときは次第に体全体が熱くなり、頭もなんだか夢の中にいるような感じがして、集中瞑想とは違って非常にリラックスした気持ちになれるんです。
その感覚になったときは、「これはものすごい発見をしたんじゃないか!?」とめちゃめちゃ興奮したのですが、後でこの瞑想法は洞察瞑想のことであると知り、「なんだ、もうすでにあるんだ」と無駄な一喜一憂をしてました(笑)

マインドフルネス瞑想をすることで起こる4つの心理的過程の変化
ここ2,30年でマインドフルネスに関する実験や研究が多く行われてきましたが、マインドフルネスが心身の健康に対して効果があることが分かってきても、「マインドフルネスにより具体的にどのような変化が起こるのか」というメカニズムはまだ完全には解明されていません。
ただ、集中瞑想と洞察瞑想によって集中力と平静さを育むことを通して、「4つの心理的過程が変化する」という理論的枠組みが、近年マインドフルネス研究者の間で共有されています。
そして以下の4つがその心理的過程です👇
- 注意制御(Attention regulation)
- 身体知覚(Body awareness)
- 情動調整(Emotion regulation)
- 自己概念(Concept of self)
順番に見ていきましょう。
①注意制御
まず最初に紹介する心理的過程は「注意制御(Attention regulation)」です。
注意制御とは「特定の対象に注意を集中し続けたり、妨害刺激に注意を逸らされる度に注意を戻す」といった能力」のことを指します。
「注意を集中する」とあるように、この注意制御の能力は主に集中瞑想を実践することによって向上すると考えられています。
現代社会に生きる私たちは昔とは比べ物にならないほど膨大な情報にさらされており、その中で自分にとって重要な情報を見極めて、その情報に選択的に集中するという能力が日々求められます。
そういった背景もあり、この注意制御の能力を育むことが大切だと考えられています。
そして「何かに注意を集中すること」の対極にあるのが、先ほども出てきた「マインドワンダリング」です。
マインドワンダリングの状態にいる時は、
- 幸福感の低下
- 過去の不快な思い出の反芻
- うつ傾向
といったことと関連していると言われています。
ただ、マインドワンダリング状態が必ずしも悪いとも言えません。なぜならマインドワンダリング状態の方が創造力が高まるうえ、人間はずっと集中し続けることができないため、休憩が必要だからです。
そのため、「マインドワンダリング状態でもうつや不安に結びつく思考をしない」「集中したいときには集中する」というメリハリが大事だと言えるでしょう。
また、余談ですが注意機能の構成要素として、以下3つの機能に分類されることが多いです👇
- 喚起機能(Alearting):予測される刺激 に対して反応準備を高め、それを維持する能力
- 定位機能(Orienting):注意によ って複数の選択肢から、特定の情報を選択する能力
- 実行機能(Executive):モニタリングや複数の処理過程における対立を解決する能力

②身体知覚
2つ目の心理的過程は「身体知覚(Body awareness)」です。
身体知覚とは「身体反応に気付く能力」のことを指します。
身体知覚能力を高めるために有効な瞑想法としては、「ボディスキャン瞑想」が挙げられます。
ボディスキャン瞑想のやり方を簡単にまとめると以下のような感じです👇
- 体勢を決める(通常は仰向けに寝そべる、椅子に座るなど)
- 呼吸をしながら、身体感覚に注意を向ける
- 注意を向けている身体感覚の場所をゆっくり移動させる
- マインドワンダリングしていることに気付いたら、また注意を身体感覚に戻す
- 最後の数分は身体全体を1つのユニットと捉え、身体全体でありのままの感覚を感じる
このボディスキャン瞑想は、特定の身体部位に意識を集中させると同時に、注意を向けている身体部位の感覚をありのままに感じることになるため、集中瞑想と洞察瞑想を組み合わせたような瞑想技法と言えます。
ボディスキャン瞑想は、不安やストレス対策のためにジョン・カバットジンが開発したマインドフルネスストレス低減法(MBSR:Mindfulness Based Stress Reduction)の一部にも組み込まれているものとして有名です。
「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」についてもっと詳しく知りたい方はこちら👇
③情動調整
3つ目の心理的過程は「情動調整(Emotion regulation)」です。
情動調整とは「情動反応を柔軟に変容させる能力」のことを指します。
一般的に考えれば、私たちが普段感じる感情や情動はコントロールしようのないものですよね。
ただ、マインドフルネスを実践していくことで、こういった情動反応をコントロールする力が養われると考えられています。
情動反応をコントロールするにしても、まずは自分が感じている情動反応に「気付く」必要があります。
ここで、2つ目に紹介した「身体知覚」の能力が活きてきます。
「身体知覚」の能力が高まると、「普段は自分の体の感覚に注意は払っていないが、意識を集中すると身体感覚を感じ取れる」ことを学習します。
そうすると、身体感覚を感じ取れるようになることで、情動反応を感じるための取っ掛かりになるのです。
また、瞑想初期の頃はいきなり情動反応をコントロールするのは難しいため、まずは集中瞑想によって特定の対象に注意を向けることで、「情動反応から注意を逸らしたり抑制できる」ことを理解します。
ただ、「情動反応から注意を逸らす」だけではコントロールしているとは言えないため、ここで洞察瞑想の出番です。
洞察瞑想は「あらゆる経験をありのままに観察する」という瞑想法であるため、ポジティブかネガティブかに関わらず情動反応を受け入れる必要があります。
この洞察瞑想で、「情動反応は身体感覚と同じようにずっとそこに存在しているものではなく、生成と消滅を繰り返すものである」ということを体感し、心の穏やかさや平静さが養われていきます。

④自己概念
4つの心理的過程の最後の一つが「自己概念(Concept of self)」です。
一般的に考えれば私たちは、
- 過去はこんな自分で、
- 現在の自分はこうで、
- 未来の自分はこうなっている
というふうに「過去」「現在」「未来」にかけて継続して一貫した「永続的な自己」が存在していると考えます。
また、普通に生きていれば、
- 私はこの身体を動かしている存在であり、
- 複雑な思考を考えている存在であり、
- 多種多様な感情を経験する存在であり、
- 自由意志を持って行動したり決断する存在である
といった感覚を誰しもが持っているはずです。
しかしながら伝統的な仏教の教えではこうした「永続的な自己」や「自分という確固たる存在」は、そこにあるように見えるだけで、実際は「全くの嘘っぱちで存在しないもの」と説いています。
また、このような「自己概念」の考え方として、これまで様々なものが議論されてきましたが、近年の哲学や認知科学における議論の中で、以下の2つの自己概念の考え方が主流になっています👇
- 物語自己(過去から未来にかけて形成される永続的なアイデンティティとしての自己)
- 最小自己(今この瞬間に生じている経験から形成される身体的な自己)

そして、マインドフルネス瞑想を通して、「注意制御」「身体知覚」「情動調整」の能力を高めることにより、これまで抱いていた自己概念であった「物語自己」から「最小自己」へと自分に対する捉え方が変容していくのではないか、と考えられているのです。
この「身体的自己のみが存在する最小自己」という概念は、ブッダが説く「無我の境地」、つまり感情や思考といった自我意識からの脱却(脱中心化)と同様なものであると言えます。
そしてこの「脱中心化」の感覚を身につけることにより、良い意味で「仮想現実としての自分」を自在に使いこなし、余計なしがらみから解放されることができるとブッダは主張します。
自分の場合もマインドフルネスを通して、「最小自己」の感覚が次第に分かってきたのですが、この感覚が身に付くと過去や未来がどうでもいいように感じられるんですよね。
この「自己概念の変容」を喩えるとすると、「今まで自分はゲームの中のキャラクターだったのが、そのキャラクターを画面越しに見守る新たな存在」のようなイメージです。
例えば、私たちは日々を生きていて、「収入」「人間関係」「物理的な痛み」など様々なことに対して危機感や不安を抱いたりしますよね。
でも、ゲームの中のキャラクターを操作しているときは、どんなに危険な状況に陥っても全く不安にならないですよね。
なぜならそれはあくまでゲームであり、ゲーム内のキャラクターに感情移入なんかしないですよね。
で、「最小自己」の感覚が身に付けば、このゲームの中のキャラクターを見守っているような感覚になれるんですよ。
そうすると、以前まで感じていたような不安やストレスがフッと消え去ったり、社会的文化的な常識やルールといったものに縛られず、ありのままに自分を表現する勇気の源泉になるんですよ。

おわりに
いかがだったでしょうか?
今回の記事では、マインドフルネス瞑想の具体的な種類ややり方に加えて、瞑想を通して生じると考えられている4つの心理的過程の変化についてまとめてみました。
特に、個人的には一番最後の「自己概念の変容」は現代社会を心身共に健康的に生きる上で非常に強力なツールになるんではないかと考えています。
みなさんの中でも、もしマインドフルネスに興味が湧いたのであれば、ぜひ実践してその効果を体感してみてください♪
それでは今日はこの辺で〜!