私たちは今、生きています。
そして日常において意識しているしていないにせよ、
誰もがみんな「この世に生を受けた以上、1度きりの人生を幸せに送りたい」
という願望を持っていると思います。
そのため当然「ではどうすれば幸せになれるのか?」という疑問が出てきます。
ただ、この疑問に関してはすでに自分の中に答えがあります。
なぜなら誰しもが
- 「今日はとても幸せな1日だったな」
- 「あの瞬間はめっちゃ幸せだった」
という経験を持っているからです。
ただ、人間は慣れる生き物なので、その瞬間は幸せでもその幸せがずっと続くかというとなかなかそうもいきません。
大抵の場合はまた退屈な状態に戻ったり、日々降りかかる出来事の中で苦痛を感じたり不幸な気分を味わったりします。
なので、私たちが問うべき問いは「どうすれば幸せになれるか?」ではなく、
それよりさらに踏み込んで、
「どうすれば不幸な状態(苦痛や退屈を感じる時間)を最小限にとどめながら、幸福を持続させることができるのか?」
であると考えています。
そしてこの記事ではその問いに対するヒントになるかもしれない、「持続可能な幸福の拡張 – 形成理論」という理論を紹介します。
目次
幸福感の6つの側面リスト
皆さんも感じている通り、幸福には様々な考え方や尺度があります。
日々の感情であったり、対人関係、仕事の充実、人生の目的の有無など、幸福かどうかについての尺度は多種多様であり、人によっても何に重きを置くか変わってきます。
そして、2000年代に突入したあたりから、「人間の幸福」や「ウェルビーイング」に関する研究が盛んになり始め、人々の幸福度や人生の満足度を測る心理尺度も数多く開発されてきました。
アメリカ心理学会(APA:American Psychological Association)が提供する尺度データベースであるPsycTESTSにはこれらの研究や心理尺度が数多く登録されています。
このデータベースの中から、幸福やウェルビーイングに関する心理尺度を抽出し、出てきたものをグループ分けすることで、「何が人の幸福を左右するか」を示す暫定的な幸福因子のリストを導き出すことができます。
その結果、以下6つの側面に大別できることがわかりました。
- 「感情の側面」
- 「対人関係の側面」
- 「適応の側面」
- 「仕事への関与の側面」
- 「日常生活の側面」
- 「人生の意義や宗教性」
それではこれらそれぞれの側面の概要について見ていきたいと思います。
①感情の側面
感情が幸福に一切関わりがないと考える人はおそらくいないと思います。
「幸福感」「幸福を感じる」と言う風に、幸福であると実感するためには「感情」の存在が不可欠です。
そんな人間の感情を評価するツールとして有名なものにPANAS(Positive and Negative Affect Schedule)というものがあります。
国際的に用いられることも多く、日本語版も作られています。
日本語版PANASは8つのポジティブ感情を表す言葉と、同じく8つのネガティブ感情を表す言葉を「非常によく当てはまる」〜「全く当てはまらない」の6段階で評価するというものです。
8つのポジティブ感情を表す言葉
- 活気のある
- 誇らしい
- 強気な
- 気合の入った
- きっぱりとした
- わくわくした
- 機敏な
- 熱狂した
8つのネガティブ感情を表す言葉
- びくびくした
- おびえた
- うろたえた
- 心配した
- ぴりぴりした
- 苦悩した
- 恥じた
- いらだった
「日常で抱く感情がこの16の言葉では全て網羅できない点」「それぞれの感情を抱く頻度、重みが違う点」など完全なる感情測定尺度とは言えないですが、幸福感を測る上で有効な1つのツールだと思います。
②対人関係の側面
対人関係は幸福になるためには欠かせないものの1つだと思います。
「嫌われる勇気」で有名なアドラーも「全ての悩みは対人関係の悩みである」という言葉を残しており、対人関係の重要性を強調しています。
よっぽどの天才で学問にしか興味ない、といったような人を除いて、ほとんどの人が対人関係がなくなってしまったら苦痛を感じると思います。
僕も友達は少ない方で人付き合いは苦手な方なので、わりと一人ぼっちでいても大丈夫な方なのですが、ウィルスミス主演の映画「アイ・アム・レジェンド」のように世界中でたった1人になってしまったら流石に寂しそうだなと思います(笑)
③適応の側面
適応とは、「ある環境において何らかの問題が発生した時に必要とされる対応」と定義することができます。
また、「何かしらのストレスを引き起こす事象に対しての対処」という風にも表現できると思います。
確かに人生は適応しなければならない瞬間が沢山あります。
例え世界一の大富豪で自由を謳歌できる立場にある人だったとしても、現実世界を自分の理想的な世界に作り変えることは不可能なので、ストレスを感じる瞬間は無くならないはずです。
このような適応をうまく機能させることをレジリエンス(弾力性)と呼び、このレジリエンスを高めることで人生におけるあらゆる困難や苦悩を乗り越える手助けにつながります。

④仕事への関与の側面
この仕事は③適応の下位領域と考えることもできますが、仕事の充実度というのは人生に対する満足度を大きく左右するものと言えるでしょう。
それもそのはずで、睡眠時間を除けばほとんどの人が仕事に人生の半分以上の時間を費やしており、この時間が充実するかしないかでは全く違った結果になることが容易に想像できます。
仕事への関与を測る尺度にも多種多様なものがあり、エンゲージメント状態を「活力」「熱意」「没頭」で評価するユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWES)や、感情を「覚醒の高低」と「快・不快」の2次元で測定する感情的ウェルビーイングアセスメント(JAWS)などがあります。
この仕事はこれまで紹介した①感情、②対人関係、③適応とも深い関わりがありますし、後ほど出てくる⑥人生の意義や宗教性とも関わってくるので、とても重要な側面だと考えられます。
⑤日常生活の側面
5番目は日常生活の側面です。
日常生活とは④の仕事も含めて日々の生活の中で繰り返される動作や出来事、と表現できます。
日常生活における幸福感を測る尺度も数多くあり、高齢者を対象にした高齢者用心理的ウェルビーイング尺度があれば、「家族」「友人」「学校」「生活環境」「自己」の5つの領域にフォーカスした児童版の多面的人生満足度尺度も開発されています。
この側面に関しては年齢による違いが最も顕著に出やすい側面のようです。
⑥人生の意義や宗教性
最後は、人生の意義や宗教性です。
おそらくこれが6つの側面の中でも最も多様かつ複雑な側面かと思います。
人生の意義を測定する尺度としては人生の目的尺度(PIL test:Purpose in Life)や人生の意義尺度(MLQ:Meaning in Life Questionnaire)などがあります。
宗教性やスピリチュアリティに関しては、それら単体を測るものではなく、人生における全般的な幸福感を多面的に捉える上での1要素として測られることが多いです。
この領域に関しては国民性や文化、伝統、宗教心などによって大きく影響されるトピックなので、普遍的で誰にでも当てはめられるような尺度を作成するのは極めて困難と考えられます。
ちなみに自分は最近まで生きる意味が見出せず悶々とした日々を過ごしていましたが、
現在は「没頭」を自分の中での人生における最上の価値観と定め、「自分の好きなこと・興味あること・ワクワクすることを体験し続け、没頭し続けたい」と思いながら生きています。
そしてそれを実現する上での基盤として、「健全なる精神と健康的な身体」を追究しながら、「物質と精神が調和した世界をつくる」をビジョンとして掲げています。
ポジティブ感情の「拡張 – 形成理論」
ポジティブ心理学で有名な理論の1つにノースカロライナ大学のバーバラ・フレデリクソン教授が提唱した、ポジティブ感情の「拡張 – 形成理論」(broaden and build theory)というものがあります。
これは「ポジティブ感情を抱くことによって、注意や認知、行動において一時的な拡張作用が生じ、その結果として新たな資源を形成する」という考え方です。
実際様々な実験研究により、ポジティブ感情を経験することによって、これまでより注意の幅が広がったり、柔軟性のある思考ができるようになったり、今までは出来なかった行動を取れたりといったことが証明されています。
(ポジティブ感情や幸福感がもたらす恩恵についてはこちらの記事でも詳しく解説しています👇)
過去の常識が覆る「幸福優位性(ハピネス・アドバンテージ)」とは何か?
そして、そうやって日々の注意や認知、行動の質やレパートリーが広がることで、将来的に役立つ様々な資源が形成されていきます。
この「拡張 – 形成プロセス」の具体的な例を挙げると以下のようなものがあります。
- 鬼ごっこといった楽しい遊びを通して子供の身体的機能が高まる
- 親との健全な愛着関係の維持によってレジリエンスや問題解決能力が向上する
- 嬉しさや楽しさを伴う経験を共有することにより、親密な友人関係が生まれる
こうして、ポジティブ感情を起因として、身体的、知的、社会的資源を形成することにつながります。
そしてこれらの資源の獲得によってさらなるポジティブ感情が生まれ、結果的に「拡張 – 形成プロセス」がさらに充実するという、「スパイラル状の幸福の形」を示しています。
また、よくよく考えてみると、これは「ポジティブ感情」だけでなく、先ほど紹介した「幸福感の6つの側面」のそれぞれにおいても適用できることが分かります。
どうゆうことなのか、より詳しく見ていきましょう。
持続可能な幸福の拡張 – 形成理論
これまでの議論をまとめると、
「ポジティブ感情の経験により、幸福感を支える資源が充実し、その変化に伴ってさらにポジティブ感情を伴う幸福感を得る経験をしやすくなるという、いわゆる持続可能な幸福状態を形成される」
というふうにまとめることができます。
そしてこの「持続可能な幸福の拡張 – 形成プロセス」に関して、「幸福感の6つの側面」のうちの①の「感情」だけでなく、それ以外の側面とも関わりがあります。
例えば、以下のような感じです👇
- 恋人関係や友人関係といった、対人関係を充実させることによって社会的資源の獲得につながる
- 離婚や失業といった苦難を乗り越えることにより、自己効力感が強固なものになる
- 職場において同僚や上司と助け合うことで、かけがえのない信頼関係を築く
- 日常生活における様々な経験がそれ以外の側面の橋渡し的な役割を果たす
- 人生の意義や宗教心を持つことで、人々とのつながりの形成やポジティブ感情の経験に役立つ
つまり、「幸福感の6つの側面が互いに作用し合っていると同時に、個人的資源(身体的、知的、精神的)と社会的資源(ソーシャルキャピタル)の形成とも因果関係がある」ということです。
イメージで言うと以下のような感じです👇

このように幸福感の6つの側面をベースとして、個人的・社会的資源を獲得していき、そのプロセスがスパイラル状に成長していくことで、単なる一時的な状態ではなく、持続可能な幸福状態が形成されていきます。
幸福スパイラルを促す要因
これまで持続可能な幸福のスパイラルモデルを紹介しましたが、このスパイラルをスムーズかつ力強く成長させるためには、以下3つの要因が深く関わってきます。
- 動機付けとエンゲージメント
- 活動の多様性
- 個人の活動の適応性
1つ1つ見ていきましょう。
1. 動機付けとエンゲージメント
幸福感を感じる上で必要となる人生における多様な活動も、継続できなければ大きな効果を得ることはできません。
そのため、日々の活動を継続し、資源を形成していくためにも十分な動機付けと、それに基づくエンゲージメントが重要になってきます。
確かなモチベーションを持ちながら日々の活動に取り組むことによって、現状維持から抜け出し、自分の中での新たなステップを登っていくことではじめて幸福スパイラルを成長させることができます。
自分の場合も、「世の中の常識に縛られず、好きなことをやって生きていきたい」という動機付けをベースに、「ブログを書いて発信する」という活動に取り組んでいます。
このように、何かに取り組む際は「何が自分を突き動かすのか」「自分は何を望んでいるのか」を明確にすることで、日々の活動に楽しみながらコミットしていけるのだと思います、
2. 活動の多様性
2つ目の要因は、目標を達成する過程における活動の多様性です。
これは要するに自分を飽きさせないための工夫です。
どれだけ楽しい出来事や活動だとしても、毎回同じことの繰り返しであればいずれ飽きてしまいますよね。
このブログの執筆にも同じことが言えます。
このブログは主に健康に関する知識や情報を書籍やインターネットから集めて自分の考えを交えながら書いているのですが、何も考えずにただただ「本を読んで文章を書く」だけではすぐにやる気が削がれてしまいます。
そういったやる気の減退を防ぐためにも、
- 知的好奇心をそそられる本を読む
- ブログのデザインにこだわってみる
- たまに何のインプットもせずに記事を書いてみる
- ブログの読者と交流してみる
- 何分で1記事書けるかタイムアタックしてみる
といったふうに楽しみながらブログを継続できる工夫を実践していきたいと思っています。
3. 個人の活動の適応性
取り組む活動の内容および特性が個人にどれだけ合っているか、という点も非常に重要なポイントです。
これは主に本人の得意なこと・才能・資質に深く関係しています。
例えば、人付き合いが苦手なら外向的な人を真似して無理に人脈作りにいそしんだり、大人数の飲み会に参加したりする必要はありません。
僕は「新しい知識を学ぶこと」「特定の物事についてじっくり分析・考察すること」が得意なのですが、この才能はこのブログを執筆していくにあたって非常に適していると思っています。
逆にこれらのことが得意でない人が同じようなことをやっていくとしたら苦痛でしかないと思います(笑)
自分の不得意な部分をあえて治す努力は全くする必要がありません。
自分の才能や資質に気付き、それらを大切にしながら、自分の得意なところを活かして活動すればそれで十分なのです。

おわりに
いかがだったでしょうか。
この記事では「いかにして幸福を持続させるか」というテーマを取り上げました。
人間誰もが幸福になりたいと感じていると思うので、こういったトピックはとても興味深いですよね。
「幸福とは何なのか?」という議題に関しては人それぞれ意見も違うでしょうし、人間の幸福感を測る価値尺度の開発や研究も今後ますます盛んに行われていくと思います。
そしてこの問いに対する完璧な答えはおそらく得られないと思いますが、問い続けることで何かが得られることもあるはずなので、今後も機会を見つけて内省し続けたいと思っています。
この記事がこれからのあなたの人生を生きる上で少しでも参考になれば嬉しいです!
そしたらまた別の記事で会いましょう〜。