なぜ人間は120歳までしか生きられないのか?

健康全般

人間は最長120歳まで生きられる」と聞いたことがあると思います。

ただ、なぜ120歳まで生きられるかを詳しく説明できる人は少ないのではないでしょうか?

また、「じゃあなぜ人間の平均寿命は70~80歳止まりなのか?」という疑問も湧いてくると思います。

この記事では人間の最長寿命が120歳と言われる所以をお伝えしながら、人体の不思議について共に考察していきましょう。

 

生物の最小構成要素は約10ミクロンの細胞

purple and pink plasma ball

細胞」とは生物体を組織する最小単位です。

そして、この細胞の大きさは「6~25ミクロン」と言われています。そのため大体平均的な細胞の大きさは約10ミクロンと言えそうです。(※10ミクロン…1mmの100分の1

この10ミクロンという大きさがとても重要で、これより大きすぎると栄養が行き渡らず、反対に小さすぎると生物体を構成するのに大変な時間がかかってしまい非効率です。

10ミクロンという大きさが、大きいと感じるかもしくは小さいと感じるかは人それぞれですが、少なくとも私たち人間の大きさからすると非常に小さい存在です。

なぜ、こんなにも小さな細胞が私たちの身体を構成することができるのかというと、「細胞分裂」を繰り返すからです。

1個が2個、2個が4個、4個が8個と「倍々ゲーム」のようにどんどん分裂していきます。

ちなみに、この10ミクロンという細胞の大きさは人間だけではなく、全ての生物に当てはまります。

そして、なぜ生物によって生体の大きさが異なるかと言うと、細胞分裂の回数が違うからです。

ゾウは人間と比べて細胞分裂の回数が多いため人間より大きく、ネズミは細胞分裂の回数が少ないため、人間より小さいのです。

 

人間は何十兆もの細胞でできている

どんな動物や生物も、生命の始まりは10ミクロンの受精卵から始まります。

当然これは人間も例外ではありません。

1つの受精卵から細胞分裂を繰り返し、やがて私たちの成体を構成するまでになります。

 

以下の表は1個の細胞から10回分裂する毎の細胞の個数を示したものです。

10回 約10^3個(1000個)
20回 約10^6個(100万個)
30回 約10^9個(10億個)
40回 約10^12個(1兆個)

 

人間は60兆個の細胞からできている」という話を聞いたことはないでしょうか。

その説の推定方法としては、「1個の細胞の大きさが10ミクロン(=0.01mm)とすると、1兆個の細胞の重さは1kgであり、人間の平均体重が60kgとすれば細胞は60兆個あるはずである」というものです。

しかし、先にもお伝えした通り、10ミクロンという数字はあくまで細胞の平均的サイズであり、細胞の大きさは部位によって6~25ミクロンと変動します。

よってこの「人間の細胞60兆個説」は疑問視されていました。

そして、2013年に報告された、イタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニを筆頭にした研究にて、「モデルとして30歳、身長172センチ、体重70キロの場合、細胞数は372000億個と推定されました。
論文はこちら

いずれにしても、人間の身体の中には何十兆個もの膨大な数の細胞が存在すると考えて良さそうです。

 

加齢に伴って細胞の分裂回数は減少する

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先ほども述べたとおり、人間の最初の1個の細胞は「受精卵」です。

卵子と精子が受精した瞬間、つまりは生命が誕生する瞬間を境に、すさまじい勢いで細胞分裂が行われ、人間の身体を構成していきます。

母親の中の胎児の段階の細胞は、出生するまで休むことなく細胞分裂を繰り返して赤ちゃんになる準備を整えていきます。

言い換えれば、細胞は胎児としてお腹の中にいる限りは無限に細胞分裂をすることができ、細胞は死滅しません。

 

では、生まれた後はどうなるかというと、「新陳代謝」が始まります。

古い細胞は日々死滅していき、それに伴い細胞分裂によって新たな細胞が生まれます。

出生→乳児期→幼児期→少年期」を通して身体はどんどん成長していきます。

しかし思春期にもなると、幼児期には40回以上あった細胞分裂の回数が25回程まで減ってしまいます。

この25回という回数まで来ると、「ブレイクイーブンポイント」、つまり生まれる細胞と死ぬ細胞の数が一致する頃合いです。

こうして成長期が終わり、身長も伸びなくなり、細胞の数は一定数を維持しながら生成と死滅のサイクルを繰り返します。

そして老年期ともなれば身体の細胞の分裂回数は10回程にまで減少していきます。次第に生物としてのみずみずしさも失っていきます。

そうして、全ての細胞が分裂するのを完全に停止したとき、生命の終わりを迎えます。

これが病死や外傷死とは違う「自然死(アポトーシス)」と呼ばれるものであり、いわゆる「寿命」です。

 

テロメアとは

今まで説明してきた細胞分裂と深い密接関係にあると言われているのが「テロメア」と呼ばれるものです。

このテロメアはDNAの複製作業でもある細胞分裂が行われる際に、遺伝情報がほつれてしまわないように、染色体の末端で防止する役割を担っています。

そしてそのテロメアは細胞が分裂するごとに短くなっていき、テロメアがある一定の長さより短くなってしまった細胞は分裂できなくなってしまいます。

つまり、テロメアはその長さをもって、細胞分裂の回数を決める「細胞時計」のようなものと言えるのです。

ここで疑問となるのが「なぜ胎児の時期は細胞分裂を永遠に繰り返せるのか」という点です。

実は胎児の間はテロメアを複製できる「テロメラーゼ」という複製酵素が存在し、これにより際限なく細胞分裂を繰り返すことができます。

しかし、このテロメラーゼは出生と同時にはたらきを失ってしまうため、細胞が分裂すればするほどテロメアは短くなっていくばかりなのです。

 

人間の節目である2乗の仮説

2乗の仮説」という言葉をご存知でしょうか?

これは京都大学の故・森毅教授(数学者)が唱えたものであり、人生の節目が「十一段階」に区切られており、2乗の法則にのっとっているという説です。

 

  • 第一段階 1の2乗=0~1歳(乳児期)
  • 第二段階 2の2乗=1~4歳(幼児期)
  • 第三段階 3の2乗=4~9歳(小児期)
  • 第四段階 4の2乗=9~16歳(思春期)
    →男女ともに「第二次性徴」を迎える時期。体毛が生えたり、性器や乳房が発育する。
  • 第五段階 5の2乗=16~25歳(青年期)
    →16歳頃で発育のピークを迎え、新たに生成される細胞より死滅する細胞が多くなっていく。次第に老化が始まる。
  • 第六段階 6の2乗=25~36歳(若年期)
    →この段階までにガンになった場合は「若年性ガン」とされる。
  • 第七段階 7の2乗=36~49歳(中年前期)
    →50歳ともなれば、日本人の閉経の平均年齢。
  • 第八段階 8の2乗=49~64歳(中年後期)
    →いわゆる「定年」の時期であり、2025年には継続雇用制度による「65歳定年」の形が整うとされています。
  • 第九段階 9の2乗=64~81歳(老年前期)
    →つい十数年前まではこの段階が平均寿命でしたが、現在は平均寿命が第十段階に移りつつあります。
  • 第十段階 10の2乗=81~100歳(老年後期)
    →2018年の調査によると、男性は81.25歳、女性は87.32歳が平均寿命。
  • 第十一段階 11の2乗=100~121歳
    →自然死(アポトーシス)を迎える時期。人間の生命の限界とされる。ちなみに史上最高齢とされる年齢は故ジャンヌ・カルマンさんの122歳と164日。

 

テロメアの細胞分裂回数の限界は120歳頃であり、喫煙や好ましくない生活習慣、公害やストレスといった外部環境要因にもよってテロメアはすり減っていきます。

そのため、テロメアの限界値に近づき、120歳まで生きるためには、日常におけるストレスフルな要素を可能な限り排除し、健康的な身体を維持する必要があるのです。

 

120歳以上生きる方法はある?

clear flask tubes lot

ここからは余談になりますが、最新の予防医療を研究する専門家の間では、このテロメアの限界値である120歳を超えて200歳、あるいは1000歳まで生きることが可能なのではないかと考える専門家も出てきています。

確かに先ほど出てきた「テロメラーゼ」と呼ばれる複製酵素を出生後も効果を失うことなく活用することができれば120歳という壁を超えられるかもしれません。

実際に近年研究が盛んに進められている「ES細胞」や「IPS細胞」などの多能性幹細胞ではテロメラーゼが発現していることが確認されています。

もし「120歳以上生きたい!」という方がいれば、普段の生活習慣をよく見直すと同時に、これらの最新医療に関する情報に対するアンテナを張っておくといいと思います!

 

おわりに

いかがだったでしょうか?

この記事ではなぜ人間の年齢の限界は120歳なのか?

そしてそれには「テロメア」と呼ばれる染色体の末端構造が鍵を握っていることを解説しました。

 

ちなみに僕は「みんな健康に気を遣って120歳まで生きるべき!」とは思っていません。

ただ、「人間という生物の身体の構造は知っておくべき」と考えます。

それらを知った上で自分は「何歳まで生きたいのか」「どうありたいのか」「どんな人生プランを送りたいか」を考えて、それを実践していくことが大切なことだと思います。

 

この記事を通して少しでも楽しんでいただけたら幸いです!

それでは〜。