突然ですが皆さんは最近「夢」を見ているでしょうか?
ここでの夢とは「人生の目標」とかそっちの夢ではなく、寝ているときに見る夢のほうです。
- 毎晩見てるよ!
- 最近見なくなったかも
- 夢は見るもんじゃねぇ、叶えるものだ! ( ̄^ ̄)
などなど色々あると思います。
今回の記事では、太古の昔より人類を魅了し、掴みどころがないけど毎晩現れる身近な存在、そんな「夢」の謎にせまっていきたいと思います!
目次
夢を見ない人間はいない
夢を見ない人間はいません。
「夢をほとんど見ない」という人がいたとしても、人生で一度くらいは必ず夢を見ているはずです。
そして、この夢はレム睡眠(REM:Rapid eye movement)と呼ばれる、寝ているときに眼球が動く睡眠の際に現れます。
ただし、夢を「睡眠中に記憶したもの」と定義するならば、ノンレム睡眠(non-REM)のときにも見ています。
しかし、ノンレム睡眠のときに見る夢は味気ないものの場合が多く、逆にレム睡眠のときに見る夢は映像があったり、動きがあったり、感情的になったり、支離滅裂だったりと、考えてみれば非常に激烈な体験です。
そのため私たちが一般的に思い浮かべる夢とは「レム睡眠中に見ているもの」と考えていいでしょう。
「夢を見る」=「睡眠の質が悪い?」
私たちを毎晩不思議な世界に誘ってくれる「夢」ですが、もしかしたらこの夢に対して否定的な気持ちを抱いている方もいるかもしれません。
例えば、「夢を見る頻度が多いと、眠りの質が浅くなってしまっているのではないか?」と考えてしまうケースです。
巷ではよく、
- ノンレム睡眠=深い睡眠
- レム睡眠=浅い睡眠
というふうに言われます。
しかしながら、「浅い睡眠」と言われると、まるでレム睡眠の時間帯が効率が悪いような印象を持ってしまう気がしますよね。
では、本当にレム睡眠は非効率な睡眠なのでしょうか?
睡眠において、「ノンレム睡眠>レム睡眠」という公式が成り立つのでしょうか?
この疑問を考える上で、まず以下のグラフ図をご覧ください👇
ヒプノグラム(睡眠の段階を示すグラフ図)
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このグラフ図は「ヒプノグラム」と呼ばれ、睡眠の段階を示すことを目的に作成されたものです。
このグラフ図を見てみて、1つ気付くことが「睡眠の前半部分はノンレム睡眠の割合が多いが、後半になるにつれレム睡眠の割合が増えていく」ということです。
また、ノンレム睡眠とレム睡眠のどちらが重要なのかを見極めるために、これまで様々な実験が行われました。
その実験とは「鳥類や哺乳類(人間も含む)において一晩徹夜してもらい、その翌日も夜になるまで起き続け、その後の睡眠の様子を観察する」というものです。
その結果判明した主な事実が以下の3つです👇
- 徹夜をした日の翌日の夜の睡眠時間は長くなる(10時間〜12時間)
- 徹夜後1日目はノンレム睡眠の割合が多い
- しかし2,3日経つにつれて徐々にノンレム睡眠の割合が減り、脳はレム睡眠を求めるようになる
①は直感的に理解しやすいですよね。
誰だって一度くらいは「学業や仕事で徹夜をして、その翌日の夜は疲れ切って爆睡する」という経験があるのではないでしょうか?

興味深いのは②と③です。
睡眠を奪われた脳は最初にノンレム睡眠を欲し、その後は形成が逆転してレム睡眠を欲するようになります。
まるで一晩の正常な睡眠(前半:ノンレム睡眠の割合が高い、後半:レム睡眠の割合が増える)のプロセスが、数日間分のプロセス(徹夜直後:ノンレム睡眠の割合が高い、徹夜から数日後:レム睡眠の割合が増える)に拡張されているような気もしますね。
こういった結果から導き出せる結論は、「ノンレム睡眠もレム睡眠もどちらも大事。ただ順番としてノンレム睡眠が先なだけ」ということです。
徹夜直後はノンレム睡眠の割合が高かったとしても、レム睡眠が不必要になったというわけではなく、脳は必ずあとでレム睡眠を取り戻しに来る、ということですね〜。
レム睡眠時に脳内で起こっていること
レム睡眠が脳にとって大事だということはわかりましたが、ではそのときの脳はどのような状態になっているのでしょうか?
実はレム睡眠中の脳は、私たちが連想しがちな「睡眠=休憩」というイメージとは真逆で、覚醒時と同じくらい、部位によってはそれ以上活性化していることがわかっています。
レム睡眠時に脳のどの部分が特に活発になっているかと言うと、主に以下4つの領域です👇
- 視覚野:複雑な視覚認知を司る
- 運動野:運動を司る
- 海馬:記憶を司る
- 扁桃体:感情を司る
しかも、④の感情を司る「扁桃体(へんとうたい)」という部位は覚醒時に比べて30%も活動量が増えていると言われています。

しかし、レム睡眠中は脳の全ての部位が活性化するという訳ではなく、特にある部位はその働きが著しく低下します。
それが「前頭前野背外側部(ぜんとうぜんやはいがいそくぶ)」という領域です。(何か問題が発覚して思わず頭をを抱えたときの手の位置、と言えばイメージしやすいでしょうか)
そしてこの箇所は、
- ワーキングメモリー
- 反応抑制
- 合理的な思考
- 論理的な意思決定
などの機能を司っています。
確かに私たちの見る夢は「映像があり(視覚野)、動きがあり(運動野)、過去の記憶がベースとなっていたり(海馬)、感情を伴う(扁桃体)」ケースが多いので、上記に挙げた4つの領域が活性化しているのも納得できる気がします。
また、睡眠中に見る夢って、決まっていつも支離滅裂でしっちゃかめっちゃかしてることが多いですよね(笑)
にもかかわらず夢を見てるときはその奇妙さに疑問を持たずにその世界に没頭していますが、起きたときに思い返すと「なんであんなに奇妙なことが起きていたのにおかしいと思わなかったんだろう?」って思ったりしますよね。
その理由こそが「前頭前野背外側部の働きが低下している」からです。
この部位が合理的な思考を司っているため、夢として見る出来事が論理的に破綻していたとしても、その奇妙さに気付くことができないのです。
レム睡眠&夢の役割は2つある
ここまで「レム睡眠はノンレム睡眠と同じように脳にとって必要なことである」「レム睡眠時の脳の様子」といったことを見てきましたが、ここからは「レム睡眠がなぜ必要なのか」「私たちにどんな恩恵をもたらすのか」を見ていきます。
結論から言うと、「夢を見る(レム睡眠)」の効果は主に以下の2つです👇
- メンタルヘルスを整えること
- 記憶を統合し、創造性を高めることによって問題を解決すること
順番に見ていきましょう。
①メンタルヘルスを整える
1つ目の夢の役割は「メンタルの安定化」です。
ここで1つ、夢(レム睡眠)がメンタルの安定に繋がることを示唆する実験を紹介します。
それは、以下のようなものでした👇
- 健康的な若い大人をランダムに2グループに分ける
- それぞれのグループで感情を揺さぶるような画像を2回見せる(間隔は12時間)
- ただし、一方のグループは同じ日の朝と夜に、もう一方のグループは夜と翌日の朝に見せる
- 脳の動きをMRIで記録すると共に、参加者本人の自己申告による感情も記録する
この実験の結果、レム睡眠の効果により、後者のグループ(夜と翌日の朝に画像を見たグループ=睡眠を取ったグループ)において以下のようなことが確認できました👇
- ネガティブ感情の要因である扁桃体の働きの低下
- 合理的思考や理性を司る前頭前野の活発化(→感情の暴走を抑制しやすくなる)
そして、前者のグループ(同じ日に画像を2回見たグループ)はこの傾向が見られませんでした。
この実験から考えられることは、「レム睡眠中(夢を見ているとき)に、覚醒時の不快な思い出や感情を喚起するような記憶を再処理しているのではないか?」ということです。
というのも、レム睡眠中は、不安を誘発する「ノルアドレナリン」というストレスホルモンが脳内から完全に排除されることがわかっています。
このためレム睡眠中は、感情が高まるような記憶を思い出したとしても(扁桃体の活性化)、不安やストレスを感じることがないため、記憶の処理をする絶好の機会と言えるのです。

②記憶を統合し、創造性を高めることによって問題を解決する
2つ目の夢の役割は「クリエイティビティの向上」です。
夢の役割の1つ目として挙げたメンタルヘルス同様、夢とクリエイティビティの関連性を裏付ける実験を紹介します👇
それは、「ノンレム睡眠時に起こされたときと、レム睡眠時に起こされたときのそれぞれにおいて、コンピュータを使って被験者に概念樹形図を作成してもらって違いを見る」というものです。
その結果、「ノンレム睡眠時に起こされたときの樹形図は元の概念と近い関係にある言葉が並ぶのに対し、レム睡眠時に起こされたときの樹形図は常識とはかけ離れた結びつきであったり、一見関連しなさそうなものだったりと、ノンレム睡眠時の樹形図に比べて突飛なものであった」ということが観察されたのです。
イメージとしては以下のような感じです👇

こうした実験結果から、「レム睡眠時の脳において常識は通用せず、全くかけ離れた記憶同士が思わぬ結びつきを見せる」ことが考えられます。
近年の研究により、記憶の整理や強化にはノンレム睡眠が大きく関わっていることがわかってきました。
そして、ノンレム睡眠の役割が「記憶の定着」であるならば、レム睡眠の役割は「定着させた記憶と過去の記憶を溶け合わせ、新たな結びつきを生み出すことである」と考えられるのです。
言い換えれば、「覚醒時は外界からの情報を吸収し、ノンレム睡眠時に得た情報を整理し、レム睡眠時に整理した情報と過去の記憶を統合している」とまとめることができます。
こうしてみると、なぜノンレム睡眠がレム睡眠の先に来るかも説明ができます。
レム睡眠時に記憶を統合しようにも、まず記憶を整理しないと統合のしようがありません。
そう考えると、ノンレム睡眠はレム睡眠を取るための準備工作と言えるのかもしれません。

「夢」を大切にしよう
「腸は第二の脳」なんて言われることがありますが、睡眠を例にとってみると「脳は第二の腸」と言えるのかもしれません。
腸が食べ物を消化し、その後栄養が体に行き渡るように、脳は受け取った情報を消化し、その後新たな結びつきを生み出し、今後の人生に備えます。
そしてその新たな結びつきを脳にもたらし、私たちの問題解決能力を高めてくれるレム睡眠は、「朝になるにつれてその比率が高くなる」という特徴がありました。
そのため睡眠時間が短くなってしまうと、「ノンレム睡眠はしっかり取れても、レム睡眠が足りてない」という危険性が生じてきます。
そうなるとメンタルも不安定になる上に、創造性および問題解決能力が低下して人生ハードモードになってしまいかねません。
「夢を見る」=「睡眠の質が悪い」と毛嫌いするのではなく、「夢を友として迎え、心身ともに健康的になろう」といった意識が社会に浸透していくと、きっとより良い世界になるんじゃないかなぁと思います。
